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水戸地方裁判所 昭和48年(レ)24号 判決

控訴人(一審参加人)

皆藤登美枝

右訴訟代理人

倉本英雄

一審脱退原告

高安すみ江

被控訴人(一審被告)

三浦ハナ

主文

一  原判決控訴人敗訴部分中金一万九、三四〇円と内金四六六九円に対する昭和三七年一〇月二七日から同年一一月二二日まで年一割五分、翌二三日から支払ずみまで年三割五分の各割合による金員の支払を棄却した部分を取消す。

二  被控訴人は控訴人に対し金一万九、三四〇円および内金四六六九円に対する昭和三七年一〇月二七日から同三八年一一月二二日まで年一割五分、翌二三日から支払ずみまで年三割五分の各割合による金員を支払え。

三  その余の控訴を棄却する。

四  訴訟費用は第一、第二審を通じこれを六分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

五  この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取消す。

2  被控訴人は控訴人に対し金一四万五、三三一円及び内金五万円に対する昭和三八年二月二六日から同年四月二五日まで年二割、同月二六日から支払ずみまで年四割、内金五万円に対する同年一月一九日から同年四月一日まで年二割、同年九月一九日から支払ずみまで年四割、内金四万五、三三一円に対する昭和三七年一〇月二七日から昭和三八年一一月二二日まで年二割、同月二三日から支払ずみまで年四割の各割合による金員並びに金四六六九円に対する昭和三七年一〇月二七日から昭和三八年一一月二二日まで年一割五分、同月二三日から支払ずみまで年三割五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

被控訴人は、原審において控訴人の請求を棄却する旨の判決を求めたが、当審においては適式の呼出を受けながら口頭弁論期日に出頭せず、かつ控訴の趣旨に対する答弁書を提出しない。

第二  当事者の主張

一  控訴人の請求原因

1(一)  訴外関篁は、被控訴人に対し、(1)昭和三八年二月二六日金五万円を弁済期同年四月二五日利息月五分遅延損害金日歩三〇銭の約定で、(2)昭和三七年一〇月二七日金五万円を弁済期昭和三八年一一月二二日利息月五分遅延損害金日歩三〇銭の約定でそれぞれ貸付けたが、昭和四六年四月三〇日一審脱退原告に対し右(1)(2)の各債権を譲渡し、同年八月六日被控訴人に対しその旨通知した。

(二)  訴外高安平次は、被控訴人に対し、(3)昭和三八年一月一九日金五万円を弁済期同月二七日利息月五分遅延損害金日歩三〇銭の約定で貸付けたが、昭和四六年四月二七日一審脱退原告に対し右債権を譲渡し、同年五月一一日被控訴人に対しその旨通知した。

2  控訴人は、昭和四六年八月一八日一審脱退原告から前記(1)ないし(3)の各債権の譲渡を受け、一審脱退原告は被控訴人に対し同月二五日到達の書面をもつて債権譲渡を通知した。

3  よつて、被控訴人は控訴人に対し合計金一五万円と内金五万円に対する昭和三八年二月二六日から同年四月二五日まで年二割翌二六日から完済まで年四割の各割合による前記約定の利息ならびに遅延損害金中利息譲渡法所定範囲内の利息ならびに遅延損害金、内金五万円に対する昭和三七年一〇月二七日から昭和三八年一一月二二日まで年二割翌二三日から完済まで年四割の各割合による前同様の利息ならびに遅延損害金および内金五万円に対する昭和三八年一月一九日から同年四月一日まで年二割同年九月一九日から完済まで年四割による前同様の利息ならびに遅延損害金の支払義務あるところ、控訴人は原審において内金四、六六九円とこれに対する昭和三七年一〇月二七日から完済まで年五分の割合による金員の支払について勝訴の判決を得たがその余の金員の支払請求について敗訴したので控訴の趣旨通りの判決を求める。

二  請求原因に対する被控訴人の認否

被控訴人は控訴人主張の各日付に金五万円ずつを三回にわたつて借受けたことは認めるが、その貸主が被控訴人主張のように訴外関篁および訴外高安平次であることは否認する。右貸金の貸主は一審脱退原告である。

三  被控訴人の抗弁

昭和三八年九月中、債権者を訴外加治洸、債務者を一審脱退原告、第三債務者を被控訴人とする水戸地方裁判所昭和三八年(ル)(ヲ)第三六四〇号債権差押及び転付命令申請事件において一審脱退原告の被控訴人に対する元本一五万円の貸金中金一四万五、三三三一円の債権を差押えから転付する旨の命令が一審脱退原告及び被控訴人に送達され、被控訴人は右転付命令に基づき転付債権者である訴外加治洸に対しその転付債権を支払つたので被控訴人が一審脱退原告から借り受けた金一五万円の貸金はその金額の限度で消滅した。

四  抗弁に対する控訴人の認否

被控訴人主張のような債権差押転付命令がその主張のように送達され、かつ転付債権が弁済されたことは認めるが、右差押転付に係る債権と控訴人が一審脱退原告から譲渡を受けた本件貸金債権とは別個の債権であるから、右差押債権が訴外加治洸に転付されかつ同人に弁済されても、その転付または弁済された金額の限度で本件貸金債権が消滅するものではないし、たとえ被控訴人が右転付命令に基づき訴外加治洸に対し支払をしたとしても、一審脱退原告に対する関係では有効な支払とはならない。

第三  証拠〈略〉

理由

一被控訴人が(1)昭和三八年二月二六日金五万円、(2)昭和三七年一〇月二七日金五万円、(3)昭和三八年一月一九日金五万円の合計金一五万円を借受けたことは当事者間に争いがなく、〈証拠略〉によれば、右借受金中、(1)の弁済期は昭和三八年四月二五日、利息月五分、期限後の損害金日歩三〇銭、(2)の弁済期は昭和三八年一月二二日、利息月五分、期限後の損害金日歩三〇銭、(3)の弁済期は昭和三八年四月一八日、利息月五分、期限後の損害金日歩三〇銭の約定であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二ところで、控訴人は右の貸主は(1)(2)については関篁、(3)については高安平次であると主張し、これに対し被控訴人は右の貸主はいずれも一審脱退原告であると反論するので、この点判断するに、なるほど控訴人主張のとおり前記甲第一、第二号証(借用金之証)によれば貸主としての名宛人欄に「関篁」なる記載があり、甲第三号証(約束手形)によれば受取人としての名宛人欄に「高安平次」なる記載があるうえ、原審及び当審証人高安すみ江、原審証人関篁、同高安平次の各証言も控訴人の主張にそうものである。

しかしながら、〈証拠略〉を総合すると、訴外関篁は一審脱退原告の娘婿で当時乳業関係の会社役員をしていたもの、訴外高安平次は一審脱退原告の実子で当時タクシー運転手をしていたものであるが、ともに被控訴人とは一面識もなく、前記(1)(2)の貸金の各五万円は訴外関篁が、(3)の貸金の五万円は訴外高安平次がそれぞれ出金しているものの、いずれも一旦一審脱退原告に手交され、同人から更に被控訴人に手交されていること、一審脱退原告は当時金融業をしており、右各金五万円を被控訴人に手交するに際し、被控訴人から五分ずつの割合による金員を受けとつていること、同じころ訴外野上幸男が一審脱退原告から金員を借受けた際、同人から言われて名義上貸主を高安平次とする借用証を書いたことがあること、以上の事実が認められるのみならず被控訴人は本件貸金はいずれもその貸主が一審脱退原告であると信じていたことが認められかつまた後段掲記の債権差押転付命令発布後右命令の債務者である一審脱退原告がその第三債務者である被控訴人に対し被差押債権である一審脱退原告の被控訴人に対する貸金債権の返済金をもつて右命令における請求債権の債権者であつた訴外加治洸に対する一審脱退原告の借入金債務の弁済に充てゝ貰い度い旨を手紙をもつて依頼した事実のあることが認められるので、本件貸金の実際の出資者が訴外関篁および同高安平次でありかつ前記甲第一ないし第三号証の名宛人が一審脱退原告でなく右訴外人等の名義となつている事実にもかかわらず法律上前記(1)ないし(3)の金員の貸主が控訴人主張のとおり訴外関篁又は同高安平次であるとはにわかに断定しがたく、むしろ一審脱退原告は訴外関篁、訴外高安平次からそれぞれ金員の融通を受け、これを被控訴人に対し自己が貸主となつて貸付けたものと認めるべきであり、したがつて、この認定に反する前記甲第一ないし第三号証の名宛人欄の記載は形式的なものと解すべく、また原審及び当審証人高安すみ江、原審証人関篁、同高安平次の各証言中の右認定に反する部分も措信できない。

三そこで被控訴人の抗弁について判断するに、訴外加治洸と高安すみ江間の水戸簡易裁判所昭和三三年(ハ)第六八号貸金請求事件の和解調書の執行力ある正本に基づき、昭和三八年九月中水戸地方裁判所昭和三八年(ル)(ヲ)第三六四〇号債権差押及び転付命令申請事件において債権者を訴外加治洸、債務者を一審脱退原告、第三債務者を被控訴人とする請求金額金一四万五、三三一円の債権差押、転付命令が発せられたことは当事者間に争ない。しかし、成立に争のない乙第一号証によれば右命令における被差押債権の表示は、「一金拾四万五千参百参拾壱円也、但し債務者が第三債務者に対し昭和三八年一月一九日金拾五万円也を弁済期同年三月一八日利息年壱割八分の約にて貸与した賃金債権の内。」となつており、既に認定した(1)ないし(3)の三口の債権の表示としては必ずしも適切ではないのみならず前記のように本件債権差押、転付命令に記載された差押債権の表示は昭和三八年一月一九日に貸付けた金一五万円のうち金一四万五、三三一円となつており一口の債権として表示されているにすぎないところ、実際には一審脱退原告の被控訴人に対する債権は既に説示したとおり金五万円ずつ三口の合計金一五万円の債権となるものであるから、右命令の被差押債権の表示では三口の債権のいずれをいかなる範囲において差押えているかを特定しているとはいゝがたく、したがつてかゝる債権差押、転付命令は被差押債権の特定を欠くものとしてその効力を否定的に解さざるを得ない。しかしながら、他方被控訴人は右債権差押転付命令に基づいて金一四万五、三三一円を訴外加治洸に支払つたことは当事者間に争がなくしかもその弁済は前段認定のように右差押転付命令の債務者である一審脱退原告の依頼もあつて第三債務者として差押債権者に対してなされたものであり、特段の事情の認められないかぎり真実の債権者に対する弁済として善意でなされた支払であるというべきであるから本件債権差押転付命令が差押債権の表示に特定性を欠く無効なものであるとしても、被控訴人の支払は債権の準占有者に対する善意の弁済として有効とすべきであるのみならず、その支払は右債権の差押ならびに転付が有効であり従つてその転付によつてすでに右債権差押転付命令の債務者から債権者に債務者の第三債務者に対する債権のうち差押転付に係る債権金額が債権者に移転しその限度で債務者の第三債務者に対する債権額が消滅したものとする前提でなされた弁済として有効となるものと解すべきである。されば原審証人加治洸の証言によつて右差押転付命令の債権者訴外加治洸と第三債務者被控訴人間に成立したものと認められる転付債権の弁済に関する債権額の端数の支払の免除分割弁済の約定は債務者である第一審脱退原告との関係においても有効とすべきである。しかして本件債権差押転付命令の差押債権の表示からすると本件命令は高安すみ江の被控訴人に対する前記金一五万円の債権元本のうち金一四万五、三三一円を差押転付すべきものとしていると解され従つてまたその転付命令の趣旨に則つて被控訴人が訴外加治洸に対し金一五万円の貸金元本のうちに金一四万五、三三一円を前記のように弁済したものと解すべく、而して前記金一四万五、三三一円が三口の各金五万円の債権元本のうちいずれにいかなる範囲において充当さるべきかについては民法第四八九条の法定充当の規定を適用して判断すべきところ、〈証拠略〉によれば右債権差押転付命令は昭和三八年九月一一日債務者である一審脱退原告に同月一三日第三債務者である被控訴人にそれぞれ送達されている事実を認めることができるから、若し前記のように金一四万五、三三一円の弁済が右転付命令の有効であることを前提としてなされたものと看做とすれば該命令がその効力を発生したと看做されるべき日、すなわち同月一三日までには右三口の債権はすべて弁済期が到来していることは前段認定の如くであるので同日を基準として同条第二号に則り本来請求の態様の如何にかかわらず実体的権利の態様の如何に従つて弁済充当の有利不利を決すべく、そうだとすれば右三口の貸金はいずれもその利息が年二割遅延損害金は年四割の各割合で請求し得べき貸金であるから、割合が利息よりも高い遅延損害金を請求し得る弁済期が最も早期の昭和三八年一月二二日に到来する(2)の貸金に先づ充当されるべき筋合であるが、本訴請求において控訴人は(2)の貸金についてその元本とこれに対する昭和三七年一〇月二七日から昭和三八年一一月二二日までの年二割の割合による金員と翌二三日以降完済まで年四割の割合による遅延損害金の支払を請求しながら昭和三八年一月二三日から同年一一月二二日までの間の年二割の割合による遅延損害金の内金の損害金の支払を請求していない事実に照らしその間の遅延損害金の内金の請求は何等かの理由によつて本訴外においても控訴人はこれをしないものと認めても差支ないものと考えるので、同年一一月二二日以前に弁済期の到来する(1)、(3)の資金の弁済充当を(2)の貸金の弁済充当に先行させることがかえつて第三債務者である被控訴人のために有利であると認め、先づもつて右弁済金を(1)、(3)の貸金の弁済に充当すると(2)の債権についてのみ金四、六六九円の元本が残存することゝなりこれに対する昭和三七年一〇月二七日から同年一一月二二日まで年二割の割合による利息、同月二三日から支払ずみまで年四割の割合による遅延損害金の支払を求める権利が前記昭和三八年九月一三日当時一審脱退原告のもとに留保されていたことは明らかであり、さらに三口の貸金元本中右金四、六六九円の元本に関する部分を除く爾余の元本債権について昭和三八年九月一三日までに発生し一審脱退原告のもとに残置された利息損害金の額を計算すると、前記三口の債権のうち、(1)の利息は金一、六一六円、損害金は金七、七二六円、(2)の利息は(ただし元本を金四万五、三三一円として計算。)金七、九九八円、(3)の利息は金二、〇〇〇円の合計金一万九、三四〇円となる。

四一審脱退原告は昭和四六年八月一八日控訴人に対し前記(1)ないし(3)の各債権を譲渡し、同月二五日到達の書面で被控訴人に右債権の譲渡通知をしたことは、〈証拠略〉により認められるが、当時一審脱退原告の被控訴人に対して有していた債権は前認定のとおりであるから、右債権譲渡はその限度においてのみ有効になされたものというべきである。

五以上のとおり、控訴人は被控訴人に対し金二万四、〇〇九円及び内金四、六六九円に対し昭和三七年一〇月二七日から同年一一月二二日まで年二割の割合による利息、同月二三日から支払ずみまで年四割の割合による遅延損害金の支払を求め得るものであるところ、控訴人は内金四、六六九円とこれに対する昭和三七年一〇月二七日以降完済まで年五分の割合による支払請求については原審において勝訴しているので控訴人の本件控訴は控訴人の請求として認容すべき前記金額のうち原審勝訴の部分を除いた残余の部分の支払を求める限度で理由がありその部分の請求を棄却した原判決を取消して、該金員の支払を命ずると共にその余の控訴を棄却すべきであるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(菅野啓蔵 太田昭雄 武田聿弘)

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